銀行融資の審査に通るために 〜決算書・試算表〜
銀行融資に重要な2項目のうち、決算書・試算表についてまとめました。
≪債務者格付・財務内容≫は、決算書の数字が最重要
銀行が融資をする場合、「債務者格付」と呼ばれる各銀行独自の査定を各事業者に対して行っています。債務者格付が一定以上でない場合、新規の融資は厳しいものになります。この査定をするための判断材料は様々ありますが、そのうちで決定的に重要なのが決算書の数字です(最近は、「事業性評価」と言って企業の将来性に基づいた考え方も判断材料になってきていますが、やはり過去の数字である決算書が圧倒的に重要です)。なお、決算書は直近3期分が見られます。
決算書のうち、最も肝心なのがBS、次にPLです。特に「純資産合計」がプラス(資産超過)かマイナス(債務超過)かが最初のポイントです。マイナスだと理論的には破綻していることになり、新規融資は非常に厳しいでしょう。また、数字がプラスだとしても実態が本当にプラスなのかが精査され、銀行が「実態BS」を作成します。不信感を買うような計上をしている場合、銀行の信用を失いかねません。
「実態BS」で精査されるポイント
【資産】
・現金、預金
預金は通帳で確認されます。現金は現実的でない数字が計上されている場合、合理的説明ができないと評価されません。
・売上債権(受取手形、売掛金)
最重要項目です。銀行員に売掛金の回収期間を聞かれた場合、月商と比較して売掛金の残高が異常に多いと、不良債権や水増しを疑われます。また、回収期間が業界平均や前期決算と比較して明らかに長い場合、警戒されます。合理的な理由がある場合は、事前に説明すべきです。
・棚卸資産(在庫)
重要項目です。棚卸資産と売上高の割合で業界平均と比較され、不良在庫(資金繰りの悪化の原因)や粉飾決算を見られます。
・短期貸付金
社長や親族役員、関連会社への貸付が塩漬け状態になっている場合、返済の見込みがないと疑われます。そうでない場合は、客観的資料で説明すべきでしょう。長期貸付金も同様です。他にも、仮払金、前払費用、未収入金、立替金なども数字が目立つと不良資産と疑われます。
・有形固定資産
土地や建物などの不動産は、含み損の有無を調査されます。
また、減価償却が必要な項目は法人税法上は計上は任意ですが、銀行の審査では減価償却した数字に修正します。
・無形固定資産
知的財産権やソフトウェアなどですが、独自のシステムなどで他に転売できない場合は流動性がなく実態として資産価値がゼロと評価されます。流動性を証明でき、明確に価値を示せる場合は、資産価値が評価されます。
・投資その他資産
チェックすべき科目は、長期貸付金、関連会社への出資金、投資有価証券、ゴルフ会員権、です。関連会社への長期貸付金や出資金は、単純にその会社の赤字補填に使われることが多く、実態として資金が流出しただけで資産価値なしと見られます。
長期貸付金がきちんと返済されている場合、しっかり説明すべきでしょう。また、出資金は配当があること、またはその資金によって関連会社の業績が伸びていて株価の算定が可能であれば資産として評価されることもありますが、殆どの場合、資産評価なしとされます。
投資有価証券、ゴルフ会員権は、簿価ではなく時価で評価されます。上場企業でない一般の中小企業の株式は、換金性や配当等を証明できない限り、基本的にゼロ評価となります。
・繰延資産
基本的に資産評価はゼロです。開発費等を計上しているケースもゼロ評価です。
【負債】
・仕入債務(支払手形、買掛金)
仕入債務と売上原価の割合で、適正に計上されているか見られます。
また、売上債権、棚卸資産、仕入債務、売上高、売上原価をベースに銀行は運転資金を算出します。
・役員借入金
「社長のお金=会社のお金」と見ることができるため、役員借入金が実態として借りっぱなしで出資に近いと、資本金とみなされます。
PLのポイント
・売上と利益
3期分のPLの推移から成長性を見ます。増収増益が理想であり、減収増益の場合は効率的な経営体質になったと評価され得ます。増収減益の場合は、経営に問題が発生したと考えられます。
・営業利益、経常利益、当期純利益
本業の利益である「営業利益」と企業の総合力である「経常利益」が重要です。当期純利益は、一時的な要因や本業と関係ない処理により影響されるので、重要度は下がります。
・キャッシュフロー
いろいろな計算方法がありますが、簡易計算でざっくり把握するには、経常利益から法人税等を引いた金額に減価償却費を足して算出します。これが返済財源になるので、非常に重要なポイントになります。キャッシュフローが年間の返済額を下回るということは、返済資金が不足することとなり、銀行は融資を警戒します。
銀行の見る財務指標
銀行は、BSやPLの数字から様々な財務指標を算出します。その指標から企業の安全性、収益性、返済能力、融資金額等を判断します。特に重要なのは次の3つです。
@ 実質黒字か
実態の損益で、直近期が赤字であれば警戒し、直近2期連続赤字だと新規融資は非常に厳しくなります。
A 債務償還年数が15年以内か
現在の有利子負債(短期借入金+長期借入金+社債)が、何年で返済できるかを計算します。計算式は、【(短期借入金+長期借入金+社債)/キャッシュフロー】で、この数字が返済年数になり、15年以内であれば許容範囲です。これを超えると新規融資が厳しくなります。
B 実質債務超過ではない
実態BSの純資産がプラスかマイナスか。マイナスの場合、新規融資が厳しくなります。